目が覚めると、目玉焼きの黄身は、やっぱり左寄りだった。
「また月曜日かよ……」
俺はスマホを手に取る。「4月14日 月曜日」。表示は変わらない。

すでに20回目だ。
いや、目玉焼きの黄身を数えてからにすると、24回目だ。

最初は焦った。何かの夢かバグかと思った。
けど、10回目くらいからは慣れてきて、今ではもう、朝の黄身の位置で「あ、やっぱり今日もダメか」って分かるくらい。

問題は彼女だった。
毎朝転校してきて、毎回「はじめまして」って言う。
ショートボブに少し大きめの制服、声が高くて、笑うときに目を細める。

20回目の朝、ついに俺は話しかけた。

「なあ、君、ループしてない?」

「うん、してるよ?」

「え、してんのかよ」

「気づいたのは11回目くらいかな。君が毎回私の靴箱の場所間違えるから」

「……ごめん」

俺たちはそれから、毎日一緒にループを抜け出す方法を探した。

校舎の屋上で叫んでみたり、校長室に突入したり、手をつないで逃げたり。
放課後に海まで行った日もあった。波は冷たくて、笑いすぎて疲れた。

ある日、彼女が言った。

「ねえ、たぶんね、私たちが出会っちゃったから、時間が止まったんだと思う」

「どういうこと?」

「もともと交わらないはずだったのに、どこかの偶然で、私たち出会っちゃった。
 だから、世界が困ってるの。『あれ?このふたり一緒にしちゃってよかったっけ?』って」

俺は何も言えなかった。

彼女は言葉を続けた。

「だからね、明日、私はもう君に話しかけない。
 このループを終わらせるには、たぶん……私たちが別れるしかないの」

次の日。
彼女は俺の隣を、何も言わずに通り過ぎていった。

「おい、転校生!名前、なんて――」

言いかけたときには、彼女はもう教室のドアの向こうだった。

その夜は、何も起きなかった。
静かなまま眠って、朝を迎えた。

そして――

目玉焼きの黄身は、右寄りに寄っていた。

スマホには「4月15日 火曜日」の文字。

俺はゆっくり息を吸って、笑った。

「……やっと、明日が来たか」