最近、学校で変な噂が広まっていた。
「ある人からメッセージが来ても、既読をつけちゃいけないらしいよ」って。

誰からなのかは、誰もはっきりとは言わない。
ただ、深夜に届く不自然なメッセージ。
アイコンは真っ黒で、名前は空欄。文面は人によって違うらしいけど、共通しているのは——読んだら、返信できなくなるってこと。

「開いた瞬間、スマホが動かなくなった」とか、
「翌日から学校に来なくなった」とか。

最初は都市伝説だと思っていた。
でもある日、実際に見せられたんだ。例の“空欄アカウント”からのトーク画面を。

「ほんとに来たの?」
「うん。夜中の2時。“今、見てるよ”ってだけ」

文字は白抜きで、背景がにじんでいた。
見た瞬間、鳥肌が立った。

「で、開いたの?」
「開いてない。スクショだけ撮って、すぐブロックした」

その子はそう言って笑っていた。
でもその夜から、そいつは学校に来なくなった。

たぶん、誰かがふざけて送ってるんだろう。
作り話にみんなビビってるだけ。そう思い込もうとしたけど……
数日後、僕のスマホにも届いた。

通知だけが表示されていて、トークを開いていないのに、そこにメッセージの一部が見えた。

「みーつけた」

手が止まった。ふざけてるなら怒ってやろうと思った。だけど、名前は空欄。アイコンも真っ黒。送信時刻は2:03。噂とまったく同じだった。

既読をつけなければ大丈夫。
そう言い聞かせて、トーク画面は開かずにスマホを伏せた。
でも翌朝、通知が増えていた。

未読なのに、どんどんメッセージが増える。

「ねえ、どうして無視するの?」
「こっちにおいでよ」
「ぜったい、見てね」
「そろそろ目、合うころだよね」

怖くて、つい開いてしまった。
トーク画面の背景は真っ暗で、ただ一言だけがぽつんと浮かんでいた。

「読んだね」

次の瞬間、スマホの画面が黒く染まり、ふっと電源が落ちた。

数分後、スマホが勝手に再起動し、通知がひとつ。

「◯◯(既毒)」

それは、自分の名前だった。