春の朝、教室には新しい空気が満ちていた。桜の花が校庭を彩り、私の心もどこか浮き立っていた。あの日、彼と初めて言葉を交わしてから、私たちは少しずつ親しくなった。最初は教室で隣の席になっただけだったけれど、次第に一緒に帰ることが増え、学校の帰り道、彼と話す時間が楽しみで仕方がなかった。

彼の名前は佐藤くん。最初は無口で少し不愛想な印象だったけれど、話すうちにその冷たい外見の奥に、どこか優しさを感じるようになった。話しているうちに、私はすぐに彼に惹かれていった。彼の少し照れくさい笑顔や、真剣な顔で話している姿が、どんどん心に残るようになった。

それでも、私たちはいつも普通の友達のように過ごしていた。無理に話さなくても、隣にいるだけで心が落ち着く、そんな時間が心地よかった。

しかし、春が終わりかけた頃、急に彼の姿が見えなくなった。

ある日、いつものように放課後、私は彼を待っていた。しかし、彼は現れなかった。次の日も、またその次の日も、彼は一度も顔を出さなかった。何かあったのだろうか。私は気になって、何度も彼を探してみたが、結局彼を見つけることはできなかった。

数日後、友達から聞いた話によると、佐藤くんは転校することになったという。理由は詳しくは分からないけれど、家の事情で急に引っ越すことになったらしい。

その瞬間、心が冷たくなるのを感じた。彼が突然いなくなるなんて、考えてもいなかった。あんなに一緒に過ごしていたのに、突然、何もなかったかのように消えてしまうなんて。

私はその日、放課後、空っぽの教室で一人座っていた。春の風が窓から入ってきて、桜の花びらが舞い込んだ。春はいつも、こんな風に通り過ぎてしまう。何も変わらず、何も特別じゃないように、ただ通り過ぎていく。

「どうして…?」私はふと呟いた。彼に、何も言えなかった。彼が去っていくことを知ることができなかった。もう一度、あの帰り道を一緒に歩くことはできないのだと思うと、胸が締め付けられるようだった。

その春が、通り過ぎていくように、私の心もまた、少しずつ沈んでいった。何も言えずに終わったこの恋が、まるで桜の花びらのように儚くて、そして温かかった。あの時、彼と過ごした時間が、どれほど私にとって大切だったのか、今になって気づいた。

春の風が、次の季節へと流れ込んでいくように、私の心もまた、通り過ぎていった。