その日、彼は石になった。

放課後の教室、彼が私の方を向いた瞬間だった。
目が合った。わたしは――またやってしまった。

蛇たちがクスクス笑う。もう慣れたものだ。
でも、慣れたくない。
恋をすると、つい見つめてしまうの。
視線の先には、いつも彼がいる。

「大好き」って言えない代わりに、見つめてしまう。
でもそのたび、石になっちゃう。
そしてそのたび、わたしの胸はきゅうっとなる。

「石化解除、っと」
私は軽く指を鳴らす。
だけど、解除の呪文は効かない。
そうだった、今回は1時間コースだった。

無意識に出た本気の視線は、呪いが強い。
時間が経たないと解けない。

仕方なく、彼の石像と一緒に机を並べる。
蛇の一匹が、耳元でささやいた。
「見つめすぎなんだよ、おバカさん」

「うるさい」って返しながら、
私は彼の固まった横顔をじっと見つめた。
ああ、やっぱりカッコいい。

そのとき、教室のドアが開いて、友達がひょっこり顔を出した。
「またやったの? 何回目?」

「……三回目」

「恋愛の呪い、重いね〜」

私は小さく笑って答える。
「だって、好きなんだもん」

彼が元に戻ると、いつも少し困った顔で笑う。
「また?」って。
でも怒らない。たぶん、気づいてる。
わたしが彼を好きなこと。

目が合うと石になるけど、
それでも恋する気持ちは止まらない。

好きって言ったら、石にしちゃうかも。
言わなくても、見つめると、石にしちゃう。でも――いつか、ちゃんと伝えたい。
目を閉じながらでもいいから、
「好きだよ」って。