その機械は「人生で一番運がいい瞬間」を測定する。
名前は《LUCKY OUT》。
街角のゲームセンターに、誰が置いたとも知れず佇んでいた。

使い方は簡単。手をかざして、ボタンを押すだけ。
すると液晶に「ラッキーアウト:〇年〇月〇日」と表示される。
それがあなたの“人生で最も幸運な瞬間”だという。

最初に試した高校生は、1週間後の「文化祭当日」だった。
その日は告白されて付き合い始め、賞も取った。
たしかに、彼にとっての“最高の日”だった。

次に試したおばあさんは、20年前と表示された。
「やっぱりあの日かぁ」と笑ったが、少し寂しそうだった。
あれが最後の恋だった、と誰かがそっと言っていた。

SNSでバズってから、LUCKY OUTには行列ができた。
恋人との未来を占いたい人、仕事の転機を知りたい人――
人は皆、自分の“運命のピーク”を知りたがった。

でも、問題がひとつだけあった。

「ラッキーアウトが“今日”だったやつは、全員……その日に死んでるらしい」

そんな噂が立ったのだ。最初はデマと思われたが、
確かに、報告された数件は「事故死」や「急病」ばかりだった。

やがて人々は考えるようになった。

もし“今日”が人生最高なら、
それはもう、この先に“もっと”はないということ。
頂点のあとにあるのは、落下だけだ。

ゲームセンターの機械は、変わらずそこにある。
誰かがそれを壊そうとしたが、なぜか誰も触れられなかった。

今もたまに、試す人がいる。

運命を知りたいのか。
あるいは、今日が“その日”でも構わないと思っているのか。

液晶に映る日付は、静かに、それでも確かに──
ひとの心を揺らしていた。