「なんで国道沿いなんかに別荘建てたの?」

到着早々、俺は慎也に訊ねた。
道路からの騒音はかなりのもので、とても別荘向きとは思えなかった。

「いいじゃん、にぎやかで」

慎也は笑った。
それ以上、深くは聞かなかった。

夕方、涼しい風が吹き始めた頃、慎也が言った。

「ちょっとドライブしないか?」

まだ日も沈みきっていない。
俺たちは慎也の車で国道を走り出した。
山道に入ると、カーブが多くなる。
慎也はやたらスピードを出したがった。

「危ないって。そんな飛ばすなよ」

俺が言うと、慎也は「大丈夫、大丈夫」と笑った。

何度も対向車とギリギリですれ違う。
事故が多い道だとは知っていたが、その時は笑い飛ばしていた。

夜、別荘に戻ると、ようやく缶ビールを開けた。
酒を飲みながら、俺たちはくだらない話をした。

気づけば、眠っていた。

翌朝、目覚めると慎也の姿はなかった。
玄関に一枚のメモが置いてある。

「急用ができた。俺の代わりに別荘使ってくれ」

外に出ると、俺の車が――いや、見慣れない古びた車が置いてあった。
ブレーキの効きが怪しいと噂される、型落ちの車だった。

胸の奥が冷たくなる。

慎也は、俺をここに残したのだ。
この国道沿いの、事故が多発する道の、
脆い車と一緒に。

またトラックが、遠くでエンジンを唸らせていた。