ある日、辺り一面が突如として奇妙な静けさに包まれた。風が吹かず、空気がひんやりと冷たく、地面に落ちた葉が一切動かない。それはまるで、何かが世界を止めてしまったような、不穏な静寂だった。

その静けさの中で、最初に気づいたのは蝶だった。小さな一匹が、風もないのに、空中をふわりと舞い上がり、すぐにまた消えた。何もない空間に、ただ一匹だけが飛んでいる。それから少しずつ、次々と蝶が現れる。

最初は数匹だったが、次第にその数は増えていった。まるで暗闇の中から現れるかのように、目に見えないどこかから、次々に蝶たちが集まってきた。小さな羽音が広がり、その音は次第に大きく、猛々しくなっていった。

人々は最初、その現象をただの異常気象だと思った。数匹の蝶が集まるのは珍しくないことだ。しかし、その数が増え続け、ついには数万匹を超えた。その数、まるで空が蝶で埋め尽くされたかのようだった。

そして、何かが変わり始めた。

蝶たちが集まったその空間の中央から、じわじわと力強い風が吹き始め、徐々に渦を巻きながら大きくなっていった。空に浮かぶ蝶たちは、まるで意志を持っているかのように、どこか一つに集中し、そのまま巨大な渦を作り上げた。

その時、恐怖が世界を覆った。

竜巻が生まれたのだ。その竜巻は、ただの自然現象ではなかった。それは蝶たちの怒りが具現化したような、恐ろしい力を持っていた。街を巻き込み、すべてを呑み込んでいく。空に舞い上がった蝶たちが引き起こしたのは、暴風と激しい嵐だった。

何もかもが引き裂かれ、木々が倒れ、家々が崩れ、空の色が灰色に変わっていく。無数の蝶が渦の中で蠢き、まるでその命が暴風を生み出す力そのもののように、異様な力を発揮していた。

人々はその恐ろしさを目の当たりにし、恐怖とともに街から逃げ出した。しかし、逃げる間もなく、全ては巻き込まれていった。数千匹、いや数万匹の蝶が引き起こした竜巻は、止まることなく、世界を飲み込み続けた。

しばらくして、静けさが戻った。

でも、すべてが変わっていた。町は跡形もなく壊れ、蝶の集まった場所には、ただの静寂が広がっていた。蝶たちの羽音は消え、荒れ果てた風景だけが残されていた。

その後、何事もなかったかのように、自然は元の状態に戻る。しかし、人々はもう二度とあの瞬間を忘れることはなかった。蝶たちの怒りが引き起こしたその竜巻は、ただの自然現象ではない。それは、この世界に潜む力が目覚め、再び暴れることを警告していたのかもしれない。

あの蝶たちの存在が示すもの、それは「自然の怒り」。どんなに小さな存在でも、無意識のうちに世界を変える力を持っているということを、私たちは学んだのだ。