この世界には、三種類の人間がいる。

透明な人。
不透明な人。
そして、半透明な人。

半透明の人は、特別だった。
透明な世界と、不透明な世界。
その両方を見て、理解し、交わることのできる、稀な存在だった。

私は透明で君は不透明だった。

本来なら、決して交わることのないふたつの存在。
けれど、あの半透明な友達を通じて、私は君を知った。

君がどんなふうに笑い、どんな声で話し、どんな手をしているか。
ぼんやりとした像しか持てないのに、
それでも私は、君に心を惹かれていった。

この世界では、20歳になると、透明度を変えられる。

透明な者は、不透明になれる。
不透明な者は、透明になれる。

ただし、半透明には、誰もなれない。
あれは、生まれながらにして定められた、特別な在り方だった。

変わるか、変わらないか。
選べるのは、一度きり。

私は迷った。

不透明になれば、君が見える。
君に、私が見える。

でも、その瞬間、私は透明の世界を失う。
今まで共に過ごしてきた家族も、友人も、
何ひとつ触れられなくなる。

胸が痛んだ。

君に会いたいと思う心と、
今までを捨てることへの怖さが、
心の中で引き裂き合った。

半透明の友達は、静かに言った。

「どちらを選んでも、誰も責めないよ」

その声だけが、どこまでも優しかった。

運命の日、私は夜空を見上げた。
世界を隔てる膜が、わずかに震える音がした。

たった一歩踏み出すだけで、
すべてが変わってしまう。

私は目を閉じた。

君が見えなくても、君を思うことはできる。
けれど、
君に「いる」と知ってもらえる世界に行きたいと思った。

深く息を吸い、私は静かに願った。

私が、君に出会う未来を。