ある日、ぼくは世界の”際”を見つけた。

放課後の裏山、木々の切れ間に、空間が裂けたような場所。
向こう側には、何もなかった。
深い深い、青黒い空白だけが広がっていた。

翌日、学校で話すと、みんなは笑った。

「うそつき!」
「マンガの読みすぎ!」
「だったら連れてけよ!」

誰も信じなかった。

家に帰って、親に話した。
だが、やはり鼻で笑われた。

そのとき、隣の座敷で聞いていた祖父が、ぼそりと言った。

「際か……」

祖父は知っていた。
世界の縁に、ほんの小さな裂け目ができること。
そして、
「落ちたら二度と戻れん」
そう静かに言った。

ぞっとした。

翌日、クラスメイトたちは、なおさらぼくをからかった。

「連れて行けよ、なぁ、嘘じゃないんだろ?」

放課後、ぼくは連れて行った。

裏山の奥、昨日と同じ場所に。
そこには、確かに際があった。
三角に裂けた空間が、風も音も吸い込んでいた。

「これかよ~!」
「ぜんぜん怖くねーし!」

一番調子に乗っていたタカシが、笑いながら近づいた。
ぼくは必死で言った。

「落ちたら帰れないって、じいちゃんが──」

その瞬間だった。

タカシが、ふざけてジャンプした。

誰も止められなかった。

タカシの体は、ふわりと消えた。

音もなく、影もなく、
まるで最初から存在しなかったみたいに。

しばらく誰も動けなかった。

やがて、誰かが震える声で言った。

「……見なかったことにしよう」

みんな、無言でうなずいた。

あたりには、風の音さえなかった。

まるで、世界が軽くなったみたいだった。