付き合ってはいない。
でも、一緒に出かけるくらいの距離にはいた。

日曜の午後、海沿いのジェラート屋。
彼女が「ここ、好きなんだ」と言ったから、ついてきた。

店の前のベンチに座って、並んで食べる。
彼女は桃とヨーグルトのダブル。僕はチョコレートだけ。

「ほら、食べるの遅いと溶けるよ」

「味わってんだよ」

そう言いながら、彼女のカップを見ると、
ほとんど食べ終わっていた。

彼女は笑っていた。
風が吹いて、髪が揺れていた。
何か言いたそうに口を開きかけて、やめた。

たぶん、僕も同じ顔をしていた。

「……来週から、ちょっと遠くに引っ越すんだ」

不意に彼女が言った。

「でも、別にすごく遠いってわけじゃないし、
 来ようと思えば、またここにも来れるし」

「そうなんだ」

それしか言えなかった。

言葉にしないまま、食べかけのジェラートが手の中で溶けていく。
カップの底に、甘い水たまりができていた。

彼女は空になったカップをじっと見つめてから、立ち上がった。

「また食べようね」

その一言は、たぶん“また会おうね”と同じ意味だった。

でも僕は、うなずくだけだった。

きっとまた会える。
でも、たぶん――今日とはもう、少し違う。

ジェラートが溶けるのを見ているような時間だった。
甘くて、やわらかくて、何かが流れ出していく。

気づかれないように、僕もカップを捨てた。