表の姫は、財閥の一人娘。
財界に顔の利く父、上品な教育、徹底された警護。
週刊誌の記者は“令嬢”では物足りず、“姫”と書いた。

裏の姫は、半グレ組織のトップの女。
血とカネで成り上がった。
誰も本名を知らず、誰も逆らえず、皆が“裏姫”と呼んだ。

二人の顔は、よく似ていた。
偶然──なのだろうか?

ある夜、クラブのVIPルーム。
裏姫は、顔を隠してやってきた表姫と対面した。

「ねえ、入れ替わってみない?」

突然の提案。だが、裏姫は面白そうだと笑った。

数日後、表姫は黒革のコートに身を包み、
裏姫はピンクのワンピースでパパラッチに微笑んだ。

裏姫は驚いた。
この世界には、金が動く瞬間を肌で感じられる“会議”があり、
笑顔で人を遠ざける“礼儀”という暴力があった。

表姫は愕然とした。
この世界では、感情が命を奪い、裏切りが一番の貨幣だった。

数日後、二人は再び会った。

「返すわ」
「……いらない。そっちの方が私には合ってる」

裏姫が言った。「私はもう、“お姫様”でいられないから」

そうして、表姫は裏の世界へ戻り、裏姫は表の世界で生きることにした。

世界が変わっても、“姫”という立場は変わらなかった。

ただ、どちらの姫も──
以前よりずっと、怖い顔で笑うようになった。